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『窓口担当者のための「内部通報制度」の実務~運用における留意点と実例解説~』

窓口担当者のための「内部通報制度」の実務~運用における留意点と実例解説~の表紙

 令和4年6月1日から施行された改正公益通報者保護法(以下「改正法」)は、事業者等に対して、①公益通報対応業務従事者を指定する義務(改正法11条1項)、内部公益通報対応体制の整備その他必要な措置をとる義務(同条2項)、従事者等に対する公益通報者を特定させる情報に関する守秘義務(同法12条)という3つの義務が課されることになった。

 また、行政機関等への外部通報保護要件の緩和(改正法3条2号、3号)、通報者がより保護されやすくなるよう保護対象通報者の範囲に「退職後1年以内に通報した退職者と法人役員」を加え(改正法2条1項、5条3項、6条)、通報対象事実の範囲に過料の対象となり得る行為を含め(改正法2条3項)、保護の内容として通報に伴う損害賠償責任の免除が追加された。

 そこで改正法では、「事業者等の義務」について理解を助けるため「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118 号)及び「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」を制定・公表するなどして、内部通報を積極的に活用することにより不祥事の早期発見や是正を行うための事業者自らのより積極的な取組みを促している。

 本書では、改正法で規定された事業者等の義務の具体的な実務対応として内部通報制度を機能させていくための制度構築、運用面を通じて検討すべき諸要素について、直近までの裁判例・20件の分析等も紹介しながら、内部通報に携わる弁護士、企業内弁護士の視点から解説している。

【目次】

発刊によせて

はじめに

第1章 企業における内部通報制度構築の基本

[1]公益通報者保護法の概要と改正に至る経緯

  ❶ 公益通報者保護法の概要

  ➋ 改正に至る経緯

[2] 内部通報制度構築の観点からみる改正法のポイント

  ❶ 改正を検討された問題点

  ❷ 改正法に反映された点

  ➌ 企業における内部通報制度構築

[3] 内部通報制度構築における基本的観点

  ❶ 企業における内部通報制度の位置付け

  ❷ 制度構築に必要な複眼的観点からの検討

第2章 内部通報制度と処理のモデル

[1]はじめに

[2]通報者の範囲

  ❶ 通報者の範囲

  ❷ 違法・不正行為を行った従業員を通報者に含める場合の対応

  ➌ 想定していない通報者への対応

  ❹ 社内規程例

[3]内部通報の内容・通報対象

  ❶ 内部通報の内容・通報対象

  ❷ 内部通報の具体例

  ➌ 内部通報の対象外とされる内容

  ❹ 社内規程例

[4]内部通報の受付窓口

  ❶ 内部通報の受付窓口

  ❷ 社内窓口

  ➌ 社外窓口

  ❹ 企業グループの通報窓口

  ❺ 組織の長その他幹部からの独立性の確保

  ❻ 通報従事者

  ❼ 社内規程例

[5]内部通報の通報方法

  ❶ 内部通報の通報方法

  ❷ 電子メール、ウエブサイト

  ➌ 電話

  ❹ 匿名での通報

  ❺ 社内規程例

[6]内部通報受付後の対応

  ❶ 内部通報受付後の対応

  ❷ 通報内容の検討

  ➌ 事実調査

  ❹ 事実認定と評価

  ❺ 是正措置・再発防止策の実施

  ❻ 被通報者等に対する処分と公表

[7]通報者の保護

[8]内部通報制度の教育・周知

[9]内部通報規程の例

第3章 内部通報処理の実務

[1]はじめに

[2]通報窓口担当者(公益通報対応業務従事者)の心構え

  ❶ 通報者の秘密保持と不利益取扱い防止が最優先

  ❷ 公益通報か否かの判断は急がない

  ➌ 通報対応の処理(一般的な流れ)

  ❹ 範囲外共有等の防止

[3]通報受付業務とその留意点

  ❶ 通報の受付方法

  ❷ 匿名による通報への対応

  ➌ 通報者の範囲(退職者からの通報)

  ❹ 通報受理の通知

  ❺ 通報内容・調査要否の検討

  ❻ 調査を実施しなくともよい場合

  ❼ 調査体制・調査計画(方針)の策定

  ❽ 検討結果の通知

  ❾ 通報者の意に反する調査

[4]調査業務とその留意点

  ❶ ポイント

  ❷ 物的証拠(客観的証拠)の収集

  ➌ 人的証拠(主観的証拠)の収集

[5]調査結果を踏まえた是正措置と再発防止策

  ❶ 是正措置及び再発防止策

  ❷ 行為者に対する懲戒処分等

[6]通報者対応とその留意点

  ❶ 調査状況の通知

  ❷ 対応結果等の通知

  ➌ 通報対応終了後のフォローアップ

  ❹ 不適切な通報に対する対応

第4章 内部通報制度における弁護士の活動

[1]外部窓口担当上の注意点

  ❶ 窓口担当弁護士の立場

  ❷ 通報対応と守秘義務

  ➌ 調査計画への助言

  ❹ 不利益取扱いの予防措置

  ❺ 調査結果のフィードバック

  ❻ 不利益取扱いに関するフォローアップ

[2]外部窓口の独立性と顧問弁護士

  ❶ 指針及び指針の解説

  ❷ コーポレートガバナンス・コード

  ➌ 弁護士職務基本規程

  ❹ 顧問弁護士と外部窓口の兼任

[3]窓口担当弁護士の役割

[4]調査委員会と弁護士

  ❶ 外部窓口と調査委員会との異同

  ❷ 2つの種類の調査委員会

  ➌ 調査委員会における弁護士の役割

  ❹ 公益通報と調査委員会

  ❺ 顧問弁護士と調査委員会

  ❻ 公益通報対応業務従事者の指定との関係

第5章 内部通報に関する重要判例の解説

重要判例解説・細目次

 ※各事案とも「事案の概要」「判決(決定)の要旨」「解説」で構成

[1]Yタクシー会社(雇止め) 事件

  (京都地決平成19年10月30日労判955号47頁)

[2]オリンパス配転無効事件

  (最一小決平成24年6月28日)

[3]D大学解雇無効事件

  (広島地福山支判平成17年7月20日裁判所ウェブサイト)

[4]海外漁業協力財団事件

  (東京高判平成16年10月14日労判885号26頁)

[5]学校法人田中千代学園事件

  (東京地判平成23年1月28日労判1029号59頁)

[6]岩国市農業協同組合事件

  (山口地岩国支判平成21年6月8日労判991号85頁)

[7]学校法人北里研究所事件

  (東京地判平成24年4月26日労経速2151号3頁)

[8]退職従業員による取引先への告発事件

  (東京地判平成19年11月21日判時1994号59頁)

[9]日本プロボクシング協会事件

  (最二小決平成28年6月8日)

[10]千葉県がんセンター事件

  (東京高判平成26年5月21日労経速2217号3頁)

[11]世田谷保健所事件

  (東京地判平成27年1月14日労経速2242号3頁)

[12]自治労共済事件

  (広島高松江支判平成25年10月23日)

[13]大王製紙事件

  (最二小決平成29年6月28日)

[14]武生信用金庫事件

  (名古屋高金沢支判平成28年9月14日労判ジャーナル57号23頁)

[15]学校法人常葉学園事件

  (最二小決平成30年1月19日)

[16]イビデン事件

  (最一小判平成30年2月15日労判1181号5頁)

[17]学校法人國士舘ほか事件

  (東京高判令和3年7月28日)

[18]京都市事件

  (大阪高判令和2年6月19日労判1230号56頁)

[19]海外需要開拓支援機構ほか事件

  (東京地判令和2年3月3日労判1242号72頁)

[20]福岡県筑前東部地区連絡会事件

  (福岡地判令和3年10月22日)

編集・執筆者略歴

『(改訂版)入門 労働事件[解雇・残業代・団交・労災]』

(改訂版)入門 労働事件[解雇・残業代・団交・労災]=新人弁護士 司君ジョブトレ中=の表紙

『(改訂版)入門 労働事件[解雇・残業代・団交・労災]=新人弁護士 司君ジョブトレ中=』発刊にあたって本書の初版以来、7年を経過致しましたが、この間、雇用環境をとりまく情勢は激変し、労働事件の全民事事件に占める比重は益々重くなってきており、従前と異なり、多くの弁護士が積極的に労働事件にチャレンジするようになっています。

また、編集を担当した東京弁護士会労働法制特別委員会は、現在、中堅・ベテランも含め130名を超える労使双方の弁護士が参加し、本委員会開催の際に毎回行われる外部講師を招いての研究会等で「同一労働同一賃金」などに関する研究を重ねてきたほか、近時提起されている様々な問題に対応すべく、「判例研究部会」「法教育部会」「公務員労働法制研究部会」「企業集団/再編と労働法部会」において活発な活動を行っています。

このような中、本書初版を執筆した「若手部会」メンバーも前記各部会等の中心的役割を担うようになっており、この「改訂版」では、近時の法改正に対応したのはもちろんのこと、各執筆者の労働問題に関する研鑽や経験の成果が各所にちりばめられたものとなっています。

本書の構成

「第1部 個別的労働関係紛争」では、代表的な事件類型である「解雇」と「割増賃金請求[残業代]」を取り上げ、「解雇」では労働局のあっせんと労働審判について必要な知識が、「割増賃金請求[残業代]」では手続の選択や訴訟で問題となる必要な知識が、幅広く、それでいてポイントをついて簡潔に分かりやすくまとめられています。「第2部 集団的労働関係紛争」、「第3部 労働災害」においても、労働事件で直面する典型的な問題について、実践的な知識が記載されています。

また、本書は「新人弁護士 司君」の日々の活動を通じた<ストーリー仕立て>として読みやすい体裁となっていますが、その実は、本委員会において研鑽を積みながら労働事件を担当している弁護士が議論を重ね、事件を担当するにおいて必要なことを記載したきわめて実践的な労働事件の入門書となっています。

『ケーススタディ 労働審判(第3版)』

『ケーススタディ 労働審判(第3版)』の表紙

『ケーススタディ 労働審判(第3版)』発刊にあたって

労働審判制度は、平成18年4月1日の労働審判法施行以来、最も成功した司法制度改革として高い評価を得て活発に利用されており、事案の性質による労働審判利用の可否の検討及びその具体的運用に精通することは、労働事件を扱う弁護士や関係者の皆様にとって必須となっています。

また、本書編集を担当した東京弁護士会労働法制特別委員会には、労働者側・使用者側・労使双方を担当する130名を超える弁護士が参加して、この労働審判制度を含め活発な議論を重ねており、この(第3版)では、最近の運用状況による加筆訂正のほか、(改訂版)からこれまでの研究の成果を漏らすことなく取り入れ、改訂を加えました。

本書の構成

「「第1部 早わかり労働審判」では、労働審判制度を利用するにあたっての事案ごとの必要な情報とノウハウをまとめ、「第2部 事件の相談・受任から解決まで」では、「普通解雇」(労働者側申立て)、「社内組織の再編と降格・配転」(労働者側申立て)、「債務不存在確認(退職理由と退職金の不支給)」(使用者側申立て)、「割増賃金の請求」(労働者側申立て)の4つのケースについて、弁護士への相談~双方代理人による申立書・答弁書等書証の作成・提出~原則3回にわたる審判廷での審尋(審判官・員、代理人、当事者のやりとりの詳細)~事件の解決までを時系列でまとめ、「第3部 主要紛争類型のポイント」では、「懲戒解雇の無効」(労働者側申立て)、「整理解雇(変更解約告知)の無効」(労働者側申立て)、「雇止めの無効」(労働者側申立て)、「退職金債務不存在確認(競業避止義務違反)」(使用者側申立て)、「パワハラ損害賠償請求」(労働者側申立て)の5つのケースについて、相談から解決までのエッセンスを解説しています。

追補2・アップ済

『特定技能Q&A-新たな外国人材の受入れ制度-』

『特定技能Q&A-新たな外国人材の受入れ制度-』発刊にあたって(「はしがき」より抜粋)

「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」の施行に伴って特定技能外国人の受入れ制度の運用が開始されて、令和2年4月で1年が経過しました。

この特定技能外国人受入れ制度は、中小・小規模事業者をはじめとした深刻化する人手不足に対応するため、生産性の向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある介護、建設、飲食料品製造業や農業など14の特定産業分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていくというものであり、専門的・技術的分野には属さない外国人労働者であっても、その受入れが可能となりました。

とはいえ、本制度による特定技能1号での在留外国人数は、令和元年12月末現在で1,621人と当初予想された人数を大きく下回っている状況にあり、その理由としては、特定技能外国人の転職が可能であるとされているために受入れ機関が雇用することに慎重になっていること、同制度への理解が深まっていないことや申請書類が多数に及ぶなどの手続の煩雑さも一因となっているものと思われます。

実際に、入管手続の申請取次者として「特定技能」の在留資格取得手続業務に携わった経験では、申請書をはじめとする書類作成の段階で「どのように記述すべきか」迷うことがあり、また、必要な書類の入手と準備に時間がかかるなど、実務面での負担を感じることが多々ありました。そのため、特定技能外国人の受入れ機関ないしは特定技能の在留資格を取得したいとする外国人が手続をしようとする場合には、専門的な知識と経験を有する行政書士等によるアドバイスや手助けが必須であろうことを痛感したところです。

 

私どもは、特定技能外国人の受入れ制度の創設に伴い、昨年7月に『改正入管法のポイントー外国人材の受入れと在留資格「特定技能」ー』を上梓しましたが、同書は、特定技能外国人の受入れ制度への理解を深めていただくとともに、同制度を適正、かつ、円滑に運用していく上での参考としていただくことを目的としたものであり、特定技能外国人の受入れに携わる実務担当者はもちろんのこと、行政書士等の専門家をはじめとする各方面においてもご活用いただくことを目指したものでした。

しかしながら、特定技能外国人の受入れ制度を取り巻く環境の変化が顕著となっていること、また、本制度への理解がいまだ十分とは言えない状況にあると思われることから、今般『特定技能Q&A-新たな外国人材の受入れ制度-』を出版することとしたものであり、本書が、特定技能外国人の受入れに携わる方々の一助となり、また、関係各方面で広くご活用いただけるよう願ってやみません。

本書の構成

本書は、実務において必要とされる知識や手続について、特定技能外国人の受入れに携わる方々がよりわかりやすく、しかも知りたい内容をピンポイントで検索できるよう「Q&A方式」で解説し、また、14の特定産業分野それぞれで定められている基準や必要書類等については、分野ごとチェックリストにまとめて掲載するなどして検索の便を図っています。さらに、「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領」については、改正の都度URLに「追補(改正後データ)」をアップして関係する方々の利用の便を図りました。

※追補データのダウンロードにはIDとパスワードが必要です。
こちらの【申請フォーム】からID、パスワードの発行のお申し込みをお願いいたします。

『改正 入管法のポイント-外国人材の受入れと在留資格「特定技能」-』

『改正 入管法のポイント-外国人材の受入れと在留資格「特定技能」-』の発刊にあたって(「はしがき」より抜粋)

我が国での外国人労働者受入れについては、これまで、「専門的・技術的分野の外国人労働者」は積極的に受け入れるが、いわゆる単純労働者をはじめとした外国人労働者の受入れについては、十分慎重に対応するとの方針が長年にわたって堅持されてきました。

しかしながら、この度、出入国管理及び難民認定法(「入管法」)が改正され、「特定技能」の在留資格が創設されたことにより、専門的・技術的分野には属さない外国人労働者の受入れが可能となりました。具体的には、外国人材を幅広く受け入れていくこととされ、国内での人材確保が困難な状況にある特定の産業分野(14の産業分野)に属する企業等において、特段の育成・訓練を受けることなく直ちに一定程度の業務を遂行できる水準の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材の受入れが可能となり、外国人労働者受入れに関する政策の方針転換が図られました。

入管法改正の動きが公表されてから改正法が成立するまでの間は、外国人材の受入れの賛否を問う意見が出され、あるいは外国人との共生の在り方や様々な問題点の指摘等がなされるなど、多様な議論が交わされ、世論の盛り上がりが見られました。また、改正法が成立した後においては、外国人材受入れに関する具体的施策を知りたいとする声が多く聞かれ、社会の関心が改正法施行後の実務的な面に移ってきました。特に、人材の確保に苦慮している企業等からは、可能であれば新しい制度を活用して外国人労働者を受け入れたいとの意向が示され、そのために制度運用に関する情報を得たいとする声が多く聞かれるようになりました。これは、外国人材の受入れ等の業務に携わっている弁護士や行政書士等、専門家の方々の間においても同様であり、制度の仕組み等に関する詳細な情報を得たい、更には手続に関する具体的な方法等を知りたいといった声が聞かれるところです。

出入国在留管理行政は、専門性が高く、特殊性の強い分野であり、外国人の入国・在留手続関係業務に携わる者には、専門的な知識と経験が求められるといった見方が一般的です。特定技能外国人の受入れ制度が創設されたことについても、外国人労働者の受入れが緩和されることについては理解できても、専門的過ぎてよくわからないといった声を聞くことがあります。

他方、外国人の入国・在留に係る手続は、本人申請が原則とされていますが、多くの関係法令で構成され、また、専門用語も多い入国・在留に係る規定等を外国人自身が理解することはとても難解であり、実務を行う企業等の担当者や弁護士、行政書士等の専門家による支援が必要となります。

以上のような状況を踏まえ、本書が、円滑な外国人材受入れと、実務者をはじめ関係各方面で、特定技能外国人の受入れ制度に関して正しい理解を得るための一助になることを願います。

本書の構成

本書は、実務者を対象として編集したもので、「Ⅰ部 改正 入管法(平成30年法律第102号)のポイント」と「Ⅱ部 外国人材の受入れ・共生のための総合的対策」の2部構成に加え、閣議決定の資料等を「参考資料」として盛り込んでいます。

Ⅰ部では、改正入管法についての項目ごとのポイントと解説、実務上の留意点を明記しつつ、より理解を深めていただくために図解を加える等の工夫を凝らしています。Ⅱ部においても、これまでに公表されている情報をもとに解説し、更には「総合的対応策の充実について」の概要にも触れています。

大学テキスト採用書籍(2023年)

◎十文字学園女子大学 教授・片居木 英人 先生

社会情報デザイン学部 社会情報デザイン学科(他学科解放科目)、3年生後期(半年)、講座名:現代社会と人権

『現代社会と人権-「共生」を考えるための15講-』

本書の特徴

 「2001年から21世紀がスタートしました。そして、今日、その5分の1が経過しています。しかし、ここで、とくに強調しておきたい点は、戦後<1945年以降>、私たち人間社会(人類社会)は、はたして、どれだけの人権問題を解決しえてきたのか、ということです。地球社会上の全生命にとっての、新たなる壮大な“脅威”も、立ち現れてきています。こうした厳しい状況にしっかりと向きあい、解決への社会的努力の成果を着実に積み重ねていくことが、つよく求められています。

 「共生(ともに生きること)」の実現のためには、専門・分化という“縦割り"

を超えるという視点が、ぜひとも、必要です。総合性・連携性・多様性という包摂的な-横断的な-認識方法が欠かせません。また、「~者問題」として対象を限定してしまうと、その枠に当てはならない、取りこぼしてしまう人々(存在)を生み出してしまう危険性もあります。人権問題は、この<選別の>危険性に十分に注意を払う必要があります。

 本書も〔この試みに〕どれだけ成功したかは、はなはだ疑問です。しかし、横断的な認識方法をもって、「~者福祉」からの脱却という問題意識をもって、全体および各講の展開を試みたつもり」であり、「「共生」を考えるための15講が、また、「現代社会と人権を考えるための一助となっていることを願ってい」るとの筆者「あとがき」の文言が、この本の<ねらい>を語りつくしているように思います。

【目次】

はじめに

第1講 日本国憲法を基軸にして

  1. 憲法13条「個人としての尊重、生命権・自由権・幸福追求権の最大尊重」
  2. 憲法14条「差別の禁止=平等権」
  3. 憲法25条「生存権とその保障における国家責任の明確化」
  4. 平和主義の重要性-基本的人権としての平和的生存権

第2講 男女共同参画と人権①-ジェンダーを問う

  1. ジェンダーとは、なにか
  2. 「漢字」から、ジェンダーを問う
  3. 日常生活の場面から、ジェンダーを問う
  4. ジェンダー・リテラシーとは
  5. エンパワメントとしての、リーガル・リテラシー

第3講 男女共同参画と人権②-人権としての「平等・発展・平和」

  1. 人権としての「平等・発展・平和」
  2. 女性差別撤廃条約の意義
  3. 男女雇用機会均等法の成立
  4. ILO156号条約の批准
  5. 第4回世界女性会議
  6. 「男女共同参画推進の根拠法」としての男女共同参画社会基本法

第4講 セクシュアリティと人権①-多様なセクシュアリティのかたち

  1. セクシュアリティ(sexuality)とは、なにか
  2. インターセックス-オスかメスかに、二分化できない「性」
  3. 多様なセクシュアリティ(性的人格)のかたち
  4. 多様な「性」・セクシュアリティへの寛容へむけて

第5講 セクシュアリティと人権②-基本的人権としての性的人格権

  1. 基本的人権としての「性的人格権」
  2. 許されない性暴力-強制性交等罪【刑法177条】
  3. リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康/権利)
  4. リプロダクティブ・ヘルス/ライツをめぐる現実問題
  5. 「売買春」から「性売買」へ-性的人格権を活用して
  6. 「性売」は人権侵害か、「性労働」としての権利か

第6講 子ども虐待と人権-「人権・権利・人権擁護」、「親権」の意味を考える

  1. 人権とは、なにか
  2. 権利とは、なにか
  3. 子ども期の人権保障・権利擁護・人権擁護とは
  4. 子ども虐待-憲法的視点からの理解
  5. 子ども虐待-私法的視点からの理解
  6. 親権とは、なにか
  7. 親権の濫用としての、子ども虐待
  8. 「国連人権教育の10年」(1995~2004年)の意義
  9. 「国際家族年」から考える-「親権」の社会的意味
  10. SDGsの課題としても
  11. 児童の権利に関する条約(子ども権利条約)の理念から

第7講 「障がい」と人権①-「障がい」とは、なにか

  1. 「障害」から「障がい」へ
  2. 社会的障壁こそが問題
  3. 「障がい」とは、なにか-国際生活機能分類(ICF)の有効性
  4. ICF-身近な例から
  5. 「障害者」「障害児」という名前の人は、いない
  6. 「人間って なんですか」

第8講 「障がい」と人権②-障害者の権利条約、障害者差別解消法の視点から

  1. 障がいのある人への“差別的な”まなざし
  2. 「福祉から雇用へ」の、自立支援の方向性にあるもの
  3. 障害者の権利に関する条約(障害者の権利条約)とは
  4. 同条約の主な内容
  5. 「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(通称:障害者差別解消法)とは
  6. 「国際障害者年」および「国際障害者の10年」がめざしたもの

第9講 ハンセン病と人権-なぜ、「隔離」や「断種」は、つづけられたのか

  1. ハンセン病とは
  2. 偏見と差別のなかに
  3. 強制された「断種」
  4. 軍国主義の「優生思想」のなかで
  5. 戦後も、なお
  6. 人権回復へむけて
  7. ハンセン病問題から学ぶべきこと

第10講 「高齢期」と人権-「人間の安全保全」という視点から

  1. 高齢者ではなく、高齢期を生きるということ
  2. 高齢者のための国連原則-人生を刻む年月に活力を加えるために
  3. 高齢者虐待防止法による「虐待」の定義
  4. 虐待は、なぜ起こるのか
  5. 「人間の安全保障」(human security)とは
  6. 「安心して暮らすことのできる社会の形成」への視点

第11講 「自立」と人権-福祉において「自立」が強調されると…

  1. 「自立」のイメージとは
  2. 自立の意味-憲法13条との関連で
  3. 自立の意味-憲法25条との関連で
  4. 自立の意味-憲法14条1項との関連で
  5. 「自助」を第一とする、現在の福祉政策
  6. 「自立」をめぐる法政策的な根拠<その1>-社会保障制度改革推進法
  7. 「自立」をめぐる法政策的な根拠<その2>-社会保障プログラム法
  8. 「関係的自立」の重要性

第12講 「異国籍」と人権-「国籍のちがいを理由とした差別」問題

  1. 増加しつづける難民および移民
  2. 日本における「難民」の状況
  3. 強制収容-人身の自由をうばう“入管行政”
  4. 在留資格未取得の異国籍の人たちと生活保護
  5. 在留資格未取得の異国籍の人たちへの人権視点を
  6. 「ヘイトスピーチ規制」の意味

第13講 「食事」と人権-飢餓と、「食品廃棄」と…

  1. 国連世界食糧計画(WFP:World Food Programme)とは
  2. 「飢餓をゼロに」-SDGsとしての課題
  3. 「食事」の意味とその実際
  4. 生存権としての「食料への権利」
  5. 「食料への権利」の国際人権法的展開
  6. 「食料への権利」の具体的内容
  7. 食品ロス(フードロス)と持続可能性-食品ロス削減推進法
  8. 「食事」と人権

第14講 動物の権利-「動物愛護」を超えて

  1. ペットから「伴侶動物」(コンパニオンアニマル)へ
  2. 飼養動物の分類
  3. 殺処分等の現状
  4. 「動物福祉」という考え方
  5. 動物愛護法の理念
  6. 2019年法改正のおもな内容
  7. 動物愛護法-許されない「動物への虐待」
  8. 「奄美自然の権利訴訟」が問いかけたこと
  9. 人間中心主義を脱せられるか-「動物の権利」定立の可能性

第15講 AIロボットの権利-その権利は、認められるか

  1. AIロボットとは
  2. AIロボットをめぐる<光>の面-人間社会にとって「最善」の状況が…
  3. AIロボットをめぐる<影>の面-空想で済むといいのだが…
  4. AIロボットの権利-「尊厳」とは、なにか
  5. AIロボットの権利-真の「共生」をめざして

おわりに

◎十文字学園女子大学 教授・片居木 英人 先生

人間生活学部、教育人文学部、社会情報デザイン学部、1年生前・後期(半年)、講座名:くらしのなかの日本国憲法1A・2A

◎十文字学園女子大学 講師・安達 宏之 先生

人間生活学部、教育人文学部、社会情報デザイン学部、1年生前・後期(半年)、講座名:くらしのなかの日本国憲法1B・2B

『【改訂新版】日本国憲法へのとびら(2訂)-いま、主権者に求められること-』

本書の特徴

「はじめに~憲法を学ぶことの意味~」によれば、本書の狙いを著者は次のように語っています。

「主権者であること」と「主権者になること」は、同じようですが、まったく違います。日本国の主権者であることとは、日本国籍をもつ者ならば、赤ちゃんでも、子どもでも当てはまります。しかし、主権者になることとは、18歳以上の者となり、有権者となって選挙で投票権をもつということなのです。

そんな大切な、選挙権をもつ主権者となるあなたへ、日本国憲法からメッセージを贈りたいのです。主権者として是非知っておいてほしい憲法のこと、人権のこと、平和のこと、政治の仕組みのこと、まだまだたくさんあります。それらが各章からやさしく、ときに"鋭く"届けられます。どうぞ、そのそれぞれのメッセージを受けとめていただき、日本国憲法の理解の上に立った、真の「主権者」となっていただきたいと願っています。

今回、【改訂新版】としてリニューアルする当たり、より読みやすくするため各章に「小見出し」をつけました。 

また、従前までは「補章 原発事故・放射能問題と憲法の精神」としていたものを、新たに「第5章 日本国憲法の精神と環境権」として本書の憲法(人権保障)体系論に組み込み、さらに他章についても必要最小限の加筆・修正を行いました。

とはいえ、小林直樹先生の『憲法を読む』と同じ思いから出発するところからは変わることなく、ここでまた改めて私たちの『【改訂新版】日本国憲法へのとびら-いま、主権者に求められること-』の「とびら」を開いていくことにいたします。

成人を迎える大学生や広く一般読者に向けて、「日本国憲法からのメッセージ」をやさしく・分かりやすく解説しました。

第1章 憲法とは何か/第2章 日本国憲法はこうして生まれた/第3章 日本国憲法の基本原理/第4章 基本的人権の種類と内容/第5章 日本国憲法の精神と環境権/第6章 日本国憲法がめざす平和主義/第7章 国民主権とは/第8章 国家権力の分立/第9章 国会のしくみとはたらき/第10章 内閣のしくみとはたらき/第11章 裁判所のしくみとはたらき/第12章 財政と租税(税金)/第13章 地方自治とは/第14章 憲法保障と憲法改正/第15章 「平等・発展・平和」と日本国憲法

◎十文字学園女子大学 講師・安達 宏之 先生

人間生活学部、教育人文学部、社会情報デザイン学部、1年生前・後期(半年)、講座名:多様性と倫理1A・2A

『生物多様性と倫理、社会-改訂版-』

 本書「はじめに」によれば、著者の<テーマ設定>や<ねらい>及び<論点等>は次のとおりです。

 「生物多様性」という用語は、自然環境の保全を考える際に必ず登場するものではあるが、古くから使われていた用語ではなく、1992年の「地球サミット(国連環境開発会議)」やその年に採択された「生物多様性条約」によって世界中に一気に広まったものであり、その歴史はわずか三十有余年といえます。そうした事情も影響してか、「生物多様性」について語られることが多くなったものの、その意味を正確に理解している人は決して多くはないようです。

 本書では、こうした<生物多様性の意味や意義>について考えていきます。生命が誕生して40億年、現在は6回目の大量絶滅時代と言われていますが、それを引き起こしているのは「私たち人類」であり、この危機の深刻さを認識するためにも<生物多様性への正しい理解>が求められているのです。

 本書は、書名が示すとおり「生物多様性と倫理、社会」をテーマとしていますが、単に<生物多様性そのものの解説>にとどまることなく、「生物多様性」に関する「倫理」や「社会」のあり方について考えていきます。そもそも「生物多様性」を考える上で、生命に関する難しい問題も横たわっています。例えば、「人と他の生物の区別はつくか?」という問いに、説得力のある答えを出すことができるでしょうか。また、保全すべき対象である「自然」とはどのようなものでしょうか。人が立ち入ることがない原生自然のみが保全の対象なのでしょうか。あるいは、田園風景が広がる里山や近所の公園の森なども対象に加えるべきなのでしょうか。こうした根源的な問いについても、現実の法や政策の経緯と現状も踏まえつつ、正面から考えていきます。

 本書の特色としては、「生物多様性と倫理、社会」を考える上で、「企業」と「NPO」の2つの視点から論じていることが挙げられます。なぜ、「企業」と「NPO」なのか。これは、一義的には、極めて単純な話として、筆者がこれまで深くかかわってきたアクター(主体)が企業とNPO(特定非営利活動法人という狭い意味ではなく、広く市民活動・市民運動を行うグループという広い意味で使います)であったからです。そして、それだけでなく、生物多様性の保全(あるいはその逆の自然破壊)に関係するアクターとしても、この両者は、良きにつけ悪しきにつけ、極めて重要な役割を果たしてきており、そうしたアクターやそれを取り巻く状況を探求することで、より具体的な生物多様性の保全のあり方を描くことができると考えたからにほかなりません。

 読者の皆さんには、本書を読みながら、対象となる自然に思いを馳せ、自然や生きものについて興味をもち、それを好きになってくれる人が増え、ともにその抱える課題について考えていけることを願ってやみません。

 なお、現在は、「気候危機」や「海洋プラスチック」など、急激に変化する生物多様性を巡る動向をも反映させた「改訂版」が発行されています。

【目次】

はじめに/改訂版の発行に当たって

第1章 「生物多様性」とは何か

  1. 「生物多様性」とは
  2. 自然にふれながら生きるということ
  3. 生物多様性の重要性
  4. 生物多様性の危機

第2章 企業と環境

  1. 企業はどのような存在か~“負の歴史”から考える
  2. 企業と環境経営
  3. SDGsと企業

第3章 企業と生物多様性

  1. なぜ、企業は生物多様性保全に取り組むべきなのか
  2. 事業者の基本的な考え方と取組み方法
  3. 生物多様性保全に向けた企業の取組み

第4章 海の生物多様性と倫理、社会①-東京湾三番瀬の自然と開発

  1. 干潟・浅瀬の役割
  2. 三番瀬とは
  3. 日本の海辺の開発
  4. 三番瀬埋立問題

第5章 海の生物多様性と倫理、社会②-自然再生と市民参加

  1. 自然再生の動き
  1. 三番瀬埋立計画の白紙撤回と「三番瀬円卓会議」
  2. かつての海辺の聞き取り調査とアマモ場再生
  3. 小さな地域で小さな取組みを増やす
  4. NPO・市民活動・市民運動とは

第6章 人と生物多様性①-生命倫理、環境倫理を考える

  1. 生命とは何か ~動的平衡論をヒントに考える
  2. 人は他の生物と区分できるか
  3. 環境倫理学への接近

第7章 人と生物多様性②-人にとって保全すべき生物多様性とは

  1. 保全すべき生物多様性とは何か
  2. 生物多様性をどのように保全するか
  3. 生物多様性の重要性をどのように伝えるべきか

第8章 法と生物多様性①-人権と「自然の権利」

  1. 「人権」とは何か
  2. 自然に権利はあるか
  3. 「人権」から自然を考える

第9章 法と生物多様性②-環境法の進展と課題

  1. 地球環境保全と国際法
  2. 生物多様性条約とABS
  3. 日本における環境法の進展と生物多様性
  4. 環境権の行方

おわりに

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